Tokina AT-X 270AF PRO (28-70mm F2.8)
カテゴリー: レンズ担当者のぼやき
AT-X270AF 28-70 F2.8が発売されてから5年。
1993年ころから、各カメラメーカーも28-70 F2.8を発売してきます。

当然トキナーのAT-X270AFの販売は性能的に非球面レンズを搭載していないため、魅力に欠け販売が低迷し出しました。純正メーカーの価格は当時10万円以上。何とかしないと・・・

28-70 F2.8と言うスペックを最初に考え付いたのはトキナー自身。ここで負けるわけにはいかないです。

じつは、このレンズ、アンジェニューにOEMをしていたんです。外観はフォーカスリングを広く取ったデザインでトキナーデザインとは全然違う当時としては、斬新なデザインでした。

この時期からAFレンズのフォーカスリングについて社内で疑問が湧き出します。

「AFになって、何でフォーカスリングが無くなっちゃったの?」

ある日、アサヒカメラの撮影会でたしか、今は無き向ヶ丘遊園で、一人のお客様が当時最新鋭のα7000で、やりにくそうにAF望遠レンズをマニュアルフォーカスで、一生懸命ピントを合わせていました。

聞いてみたら、「だってピントが目に合わせようとしても鼻に合ってしまう」とのこと。この当時画期的だったαでも細かな合焦は難しいのだと言うことを私なりに認識しました。

だったら、フォーカスリングを幅広にして、「AFレンズでもマニュアルの操作性、操作感が良いレンズがあってもいいじゃん」と閃きましたね。

アンジェニューにOEMをしていたレンズのフォーカスリング幅は良い。

しかし、その幅広のフォーカスリングがAF時に回転してしまっては、帰って操作性が悪い。

AFの時はフォーカスリングが回転しないで、マニュアルのみ使用出来ないとまずいよな。

そんな中、当時の生産技術部にO部長がいて、なんと試作機でフォーカスクラッチを付けたレンズで遊んでいたんですよ。「このレンズ良いべ」だって。

すでにアンジェニューのOEMも終了した時期なので、「このデザイン頂き」って感じで、採用することに。ただ、現行のAT-X270AFとレンズの性能的な差別化は?

それでなくても純正メーカーは非球面レンズを搭載して性能が良い。価格だけでは勝てるほど日本のユーザーは甘くないです。非球面レンズを入れないで性能を上げる手段って?

実は、トキナーの28-70 F2.8の設計値、厳密には28-70 F2.6-2.8だったんです。

開放から若干絞るように設定をすることにより、ワイド端の性能は良化しました。

また、部品精度を上げ、組み立て調整も出来るだけ基準を高める事に成功しました

製造が大変なので、あまり使いたくはありませんがレンズ設計は同じでも、性能を上げる事は可能なんです。

コーティングもアンバー傾向のAT-X270AFからグリーンが良く発色するナチュラルな傾向に変更しました。この当時、どうしてもコートを量産すると狙った波長域に留まらない。

だったら、最初からずらしてみるか?

これがバッチリ決まり、量産可能に。

今では信じられない荒業ですが、当時やっちゃったんですの結果オーライ。最後にニコンDタイプ対応をレンズメーカーの中ではいち早く開発し、このレンズに搭載出来ました。また、報道関係の方々からの堅牢性の要求にも配慮した機構設計を採用しました。

でっ、名称は?

AT-X270AFとは外観が全く違うデザイン。重量、最大径も増加。フィルター径も72mmから77mmに変更。当時違う業界の製品にPROを使うのが流行っていたような。「PRO」を付けようと決定。

でもPROの定義は?

レンズの描写性能が良好

コンスタントなF値であること

フォーカスクラッチを搭載し、AFレンズであっても、マニュアルでの操作感を高める

堅牢性のある外観デザインとズーミング時にも全長変化の無い操作性の良い機構設計

でもね、営業は売れないって言ったんですよ。

大きく、重く、価格もAT-X270 AFより高い。

結局標準小売価格はフード別売の69,000に決定。AT-X270PROの初代の誕生です。

焦点距離 明るさ 最小絞り レンズ構成 コーティング 画 角 最短撮影距離
28~70mm F2.8 F22 12群16枚 多層膜コーティング 75°20′~34°20′ 0.7m
ズーム方式 絞り羽根枚数 フィルターサイズ 最大径 全 長 重 量 付属品
回転式ズーム 8枚 77mm 79.5mm 109.5mm 760g 専用ハードケース
希望小売価格
ニコン, ミノルタ, ペンタックス キヤノン 別売メタルフード MH773
¥69,000 ¥75,000 ¥3,500

この当時1994年のトキナーの業績はかなりヤバイ方向で、「このレンズが売れなかったらトキナー閉めましょう」と現山中社長に言われた事をはっきり覚えています。たぶん、山中社長は売れるんじゃないかって、確信があったのでしょうね。

そして、何と売れちゃったんですよ。

その当時、N社さんは35-70 F2.8と出遅れていて、N社さんのお客様に買って頂きました。AT-X 270 AF PROは、改良モデルなので、最初は保険としてAT-X 270 AFと併売だったんですが、受注が多く生産ラインが足りない。生産ラインを全てAT-X 270 AF PROに当ててAT-X 270 AFは速攻で生産中止に致しました。ただね、海外は日本国内ほど人気が無くて、「なんで日本だけ売れるのか理解出来ない」と各国の代理店に言われた事を記憶しています。当時の販売比率は日本と海外で4:6。今では考えられないほど日本国内に頼っていたのかと驚きます。

しかし、このレンズがトキナーの窮地を救った事も事実で、これからPROシリーズを確立して他社と差別化していった最初のモデルになったのも事実です。

その後、このモデルは1997年に塗装変更、花形フード装着としてNEW AT-X 270 AF PROとなり、最後には部品を海外調達したコストダウンモデルとしてAT-X 270 AF PRO SVとなり2000年に発売したAT-X280 AF PRO (28-80mm F2.8)にバトンタッチして生産を終了します。

AT-X270AF_AF287PRO

いま考えると、90年代後半は、トキナーにとって束の間の幸せな時期だったのではと思います。

PicTavern投稿作品

お品書き

掲載に向けて
Tokina AT-X 270AF (28-70mm F2.8) (1988年発売)
Tokina AT-X 400AF (400mm F5.6) (1990年発売)
Tokina AF235 (20-35mm F3.5-4.5) (1992年発売)
Tokina AT-X M100 AF (100mm F2.8 Macro (IF) ) (1992年発売)
Tokina AT-X17AF , AT-X17AF PRO (17mm F3.5) (1993年発売)
Tokina AT-X 340AF (100-300mm F4) (1993年発売)
Tokina AT-X 270AF PRO (28-70mm F2.8) (1994年発売)
Tokina AT-X 300AF PRO (300mm F2.8) (1994年発売)
Tokina AT-X 828AF PRO (80-200mm F2.8) (1995年発売)
Tokina AT-X 840AF (80-400 F4.5-5.6) (1997年発売)